玉岡かおるが審査委員長を務めている「オンキョー世界点字コンクール」の第15回の選評です。
総評 「希望の光」
このコンクールの選考に関わらせてもらうようになって以来、白杖の人によく気づくようになった。そして席を譲ったり行く方向への導きをしたり、小さな勇気を出せるようになった。文章にはそのように、人を動かす力がある。
ここに集まった作文も、どれもそういう力を持った作品だった。視覚を失いながらも決してその運命に埋もれず、暗さに閉ざされる中に希望という光を見失わない。その姿勢が尊くて、読む人を大きく動かしていくのである。
成人の部ではそうした作品が競い合った。中でも小林由紀さんの「天使の杖とともに」の文章が胸に響いた。視覚が失われていく中、白杖にささえられて向き直る景色に、何一つ当たり前のものはない、といとおしむゆかしさ。「人は意地悪をされると心がしおれる。優しさに触れれば元気で幸せになれる」の一文は、世界中で争っている人々にも読んでもらいたいと思った。
この作品と最後まで議論が別れたのがボロット・クズ・シリンさんの「私の世界を広げてくれた点字」。なにしろキルギスという遠い国からやってきて、日本語を学び点字を学び、これほどの作文を仕上げた力量には、誰もが感服。「点字は神様が与えてくれたプレゼントです」というさりげない表現の背後には、この人が重ねたはるかなる努力の総量がうかがえる気がした。
学生の部では、いつも聴いていたラジオに思い切って投稿したことから生まれたふれあいをつづった松村一輝さんの「ありがとうラジオ」が注目された。メッセージの詳細は文中にないが、顔も知らない相手との声だけの不思議なふれあいに、青年らしい感性が伝わる。
小中学生対象の特別賞には、河村真帆さんの「エンドウのしゅうかくから学んだこと」が選ばれた。観察眼にすぐれ、エンドウ豆という題材だけでよくこれだけ書けたという感嘆の声も。
サポートの部では、大高翼さんの「新しいコミュニケーション」。現役の盲学校高等部の生徒なので学生の部に入れてもと考えられたが、書かれた内容はまさしくサポート。彼自身、視覚障害がありながら、盲ろうの同級生とよりすみやかにコミュニケーションを取れるよう指点字を覚えた体験がゆたかにつづられている。
選考はどれが賞になっても異論なしとの結論で、小林さんを全体の中の最優秀賞、シリンさんを成人の部の優秀賞とした。また新たな力をいただけたことに感謝したい。
最優秀賞
「天使の杖とともに」 京都市 小林 由紀(45歳)
http://www.jp.onkyo.com/tenji/2017/jp01.htm
入賞作品は、下記オンキヨーのサイトでご覧いただけます。
http://www.jp.onkyo.com/tenji/2017/result_japan.htm